Special Feature
2024.10.18
言葉を超え、コマを超えて癒やしを与えるエイリアン――SIMON個展「ALIEN NEURON」インタビュー
1997年生まれ、福岡在住のアーティスト・SIMON。ニューヨークや台北、シンガポール、東京など言語の壁を超えて活躍するこの作家は、かつては漫画家を志望し、挫折した体験から現在に至るという。なかでも宇宙人をモチーフとした「エイリアンちゃん」は、大きな触角と瞳が愛らしいオリジナルキャラクターとして、SIMONのシグネチャーとなっている。キャンバスからバスケコートまで様々なメディアに飛び乗っていく「エイリアンちゃん」の軌跡を追い、今回「ALIEN NEURON」にてついに現れた宇宙船(のような屋台)が発する電波をキャッチするため、SIMONにインタビューを行った。
漫画家を諦め、「可愛い」を求めたキャラクター
――「エイリアンちゃん」が生まれた経緯について教えてください。
もともと父の影響で漫画が好きで、漫画家になりたかったんです。10代の後半から3、4年ほど、とある少年誌の編集部にお世話になって、読み切りを掲載してもらったこともありました。でも、連載が実現する前に僕の心が折れてしまって。どうしても体力や精神の面で、自分が漫画家に向いていないように感じたんです。
それでも絵を描き続けたい気持ちがありました。物心ついた時からずっと絵を描いていたんです。だから、僕の根底にある好きなものってなんだろう、と考えていった先で生まれたのが「エイリアンちゃん」でした。
――童心に帰ることで「エイリアンちゃん」が生まれたと。
子どもの頃はサンリオやディズニーなどのキャラクターが大好きだったので、ルーツを辿っていくと、パッと一目で可愛さが伝わってくる存在が好きなんだと気づきました。
それから小さい頃には犬や猫を飼っていたんです。動物に言葉は通じないけれど、第六感というんでしょうか、「楽しいのかな」とか「悲しいのかな」とか、伝わってくる部分があるじゃないですか。僕は言葉よりも、そのような感覚の方が身近に感じています。
漫画家時代、「人間って難しいな」とずっと思っていたんですよ(笑)。連載を目指して青春漫画やSF、アクション、ラブコメなどの群像劇を描いていく中で、やっぱり人間を描かなきゃいけないことが、今考えると心に引っかかっていたんだなって。だからこそ反対に、本当に自分が癒やされる存在として「可愛い」キャラクターがいることに気づけたんだと思います。
――「エイリアンちゃん」はヒト形のようだけど、2本の大きな触角が突き出ていますね。これは人間にはないコミュニケーションの形を示しているのでしょうか?
言葉って、物事を白黒はっきりさせることができますよね。でも、人間はもっと常に曖昧な存在だと思っています。何かと対面した時に最初に気づいたり、感じたりする印象は、言葉ではないのかなって。
――SIMONさんの言葉を疑う視座は、本展ステートメントの「あらゆる性別の固定観念を破壊する」といった二元論的なジェンダー規範への疑いにも現れていますね。
僕自身、物心ついた時から、女性雑誌や服を見ることや、それを絵に描くことが好きでした。だから、「男らしさ」とか「女らしさ」とか、そもそも何が「普通」かっていう概念があんまりわからないんですよね。
それでも小さい頃から周囲の厳しい目線を感じていて、ひとりでこっそりコンビニに行って女性雑誌を買ってみたり、画集をこっそり読んでみたりしていました。それは自分の世界に閉じ込められるような楽しみもありましたけどね。
ジェンダーについても他のことについても、白と黒が社会的に決められている中で、「真ん中でもいいじゃん」というのは常に思っていますね。人と話していたって、表面上は笑っていても本当は悲しいことだってあるはずじゃないですか。そんなちぐはぐだったり完璧ではない在り方に対して、「癒やし」を与えるような存在として「エイリアンちゃん」がいてくれたらいいな、と思っています。
――本展ステートメントの「可愛いで脳を破壊する」とは、どのような意味でしょうか?
少しずつ固定観念を溶かしていくというニュアンスです。やっぱり僕が表現したいのは、「癒やし」なんです。言葉を介さずに、「エイリアンちゃん」によって視覚的に脳にインパクトを与えられたらいいなって思います。