Special Feature

2025.09.14

世界を滑走し、暗室で100%の色を求めて――Lui Araki個展「Color/Scape」インタビュー

暗室に光った偶然

特筆すべきは、現像の過程までを自身の手で完結させている点だ。本格的にカラープリントに取り組んだのは31歳の頃だったが、そこから試行錯誤を繰り返し、公に展示できるまでは5年ほどの歳月を要したらしい。

モノクロならまだしも、カラー現像を独学で身につける苦労は想像に難くない。荒木のカラープリントは、「はじめはどんなに頑張っても出来なくて……十時間も待って色がまったく浮かんでこなかったんです。それは、紙の露光面が逆向きだったんですよね」という笑い話から始まっている。

「それこそ最初は写真屋に頼んでいたんですけど、『もうちょっと黄色を足してください』とか二回も三回も送り返すような、満足いくまでが大変だったんですよ。その時に、もう自分でやるべきだなって思いました。自分の理想まで持っていくなら、自分の手でやらなきゃなって」

現像を始めてから、撮影にもフィードバックがあったという。荒木は撮った写真に「トリミングをしない」が、やはりプリントされた一枚一枚をありのままで眺める時間が、撮る瞬間の思考にも差し返されているようだ。また、「オーバー気味に撮った方がいい」といった友人からのアドバイスも、いざ暗室に入るとその重要性が再確認された。ISO400ほどの安価なフィルムを愛用しているからこそ、露出についても厳密なコントロールが求められる。

それでも彼が現像にこだわる理由は、本展のタイトルにもなっている「色=Color」のためだ。荒木の水準には「100%の色」というものがあるそうだが、本展に飾られた写真たちの仕上がりは「まだ行けると思う」と向上心を露わにする。

「現像に関して、満足しきることはないです。『これもうちょっとこうできたな……』ということも思うんですけど、結局、好きな色合いっていうのは日によって変わったり、気分によっても変わるんですよ」

そういった試行錯誤を繰り返す場としての暗室で生まれたのが、コラージュ作品群の「TEST PRINTS」だ。手でちぎられた一枚一枚は実際のテストプリントに使用した印画紙の切れ端で、荒木は「なんとなくもったいなく感じて」全て保管していた。これが作品へと昇華されたのは、香港のデッキブランド〈Victoria〉からゲストボードをリリースするための打ち合わせの時だった。

「どの写真をプリントしたらいいかなと思って、うちの暗室まで来てもらったんです。そしたら、置いてあったテストプリントを見て『これいいじゃん!』と盛り上がって。で、いくつか組み合わせてみたら意外といい感じになったんで、本当に偶然の産物ですね」

すべてDIYで進んできた荒木の道のりには数多くの「偶然の産物」が落ちている。プロスケーターになったことも「遊び」であったし、もちろんスナップの一枚も偶然でしか生まれ得ない。あくまでラフに、自らの興味を突き詰めていった先が彼の現在地なのだ。

Exhibitions

Lui Araki『Color/Scape』
2025.09.12 fri - 09.28 sun