Special Feature

2025.08.14

2025年の大滝詠一と「ナイアガラ」――河村康輔&菅原芳人& NaO『Eiichi Ohtaki’s NIAGARA 50th Odyssey』インタビュー

―それから『DEBUT AGAIN』のジャケット写真を模した、社長机の再現コーナーについても伺いたいです。こちらは菅原さんだけでなく、実の息子だという造形作家のNaOさんも制作に参加されていて。

菅原芳人:ええと『DEBUT AGAIN』のジャケット写真というより、その元になった『B-EACH TIME L-ONG』の発売時に撮影されたスチールなんです。私のフィクション・ポスターで『B-EACH TIME L-ONG』の告知ポスターをベースにしたのは、その必然からでした。

デスク周りの再現は、New Galleryさんのコンセプトとして“もしも神保町に「ナイアガラ・レコード」の事務所があったら…”というものが先にあったんです。で、打ち合わせをするうちに、これは徹底的にやったほうが面白いんじゃないかと思ったんです。で、担当の方もそこを面白がって向き合ってくれたんで、力を合わせて楽しく作業が出来ました。とっても楽しかったです。

―タイプライターや地球儀、黒田武士の人形も、ジャケット写真から特定されたのだとか。

菅原芳人:やっぱりこういうのは、徹底的にやらないと面白くないですから。でも、スチールの中でもすごく目を引くカセットホルダーは、現物がどうしても入手困難で。「これは痛いな」と思って息子に相談したら、「たぶん作れるよ」と言うので写真からの分析でイチから作ってもらったんです。

―ぜひNaOさんにもお話を伺いたいです。自分はてっきり、舞台美術か何かのお仕事をされている方が携わっているのかなと思ったのですが、造形作家として活動されているのですね。

NaO:子供の頃からやっていた「ものづくり」の延長なんです。僕はもともと映画が大好きで、小学生の頃から映画に出てくる小道具やアイテムのレプリカを作って遊んでいたんです。初めて作ったのは『ライトセーバー』でした。そんなことをしているうちに技術が上がって、写真一枚見れば構造やどうすれば作れるかがわかるようになってきて。今はその技術を、自分の頭の中のオリジナルイメージを具現化することに使っています。

―大滝さんの顔のボブルヘッド人形も、NaOさんが制作されたそうですね。

NaO:はい。大滝詠一さんの立体物があったら欲しい。僕に作らせて欲しいな。と、そんなことを父と話していた翌週にちょうど今回のオファーをいただいて。これは何かの縁だと思いました。

大滝さんはアメリカのオールディーズに強い影響を受け、自身の音楽活動にもそれを大きく反映させた人ですよね。だから、大滝さんを立体化するなら1950~1960年代アメリカでブームだったボブルヘッドがいいなと考えました。それに大滝さんは野球好きだとも聞いて、これだ!と思い、提案させていただきました。

でも、普通だったら形にさせてもらえないようなことなので、信頼していただけたことが全ての始まりで、すごく感謝しています。

―今回とくに苦労された点などはありますか?

菅原芳人:今回の再現の中では、正解がわからなくて想像で補ったところもあります。たとえばトロピカルジュースのコースターとして敷かれているレコードは、写真からは解読できなかったんです。柄としては、タイプライターの下に置かれた『EACH TIME SINGLE VOX』の中の1枚とも似ているんですが、そこにボックスが置かれているのなら、違うだろうと。そこからは想像で、『Sing A LONG VACATION』のレコードなら違和感ないなと考えたんですよ。

―史実と想像を組み合わせる制作だったんですね。

菅原芳人:そうですね。辻褄が合っているということがすごく重要かなと。

―今回、想像もあわせて「ナイアガラ」事務所を再現してみせたわけですが、もし仮に、ここに大滝詠一さんがふらっと入ってきたら……ということを考えてみたら、どんなことをおっしゃると思いますか?

菅原芳人:まず基本的に、自分の仕事や作品作りに関しては、大滝さんが亡くなってしまったとはいえ「どこかで必ず観ている」という意識が常にあります。だから、彼に恥ずかしくないような制作態度とクオリティの追求を心がけています。

その上で、「大滝さんがここを見たら」という想像は僕にはできないんです。彼がいなくなってしまった以上、大滝さんが残したものをどう楽しむかは、残された人たちの側にあるのだと思っています。アーカイブと向き合いながら、ある種、無責任に、「大滝さんだったらこうしているかもな」と想像することしかできませんから。

―NaOさんは世代的に、後追いで大滝さんを知ったのだと思います。NaOさんにとって大滝詠一とはどのような存在なのでしょうか?

NaO:物心ついた時から、大滝さんの音楽は車に乗るといつも流れていましたが、当時はそれが誰なのかは知りませんでした。高校生になって映画音楽をきっかけに細野晴臣さんを知り、そして『はっぴいえんど』に繋がり大滝詠一さんを再認識することになりました。ラジオも聴いてその知識の広さと深さにも驚きました。僕にとって、本当に学ぶところの尽きないアーティストだという思いがあります。

―アーティストでありながら「の巨人」としてのリスペクトがあると。菅原さんはいかがですか?

菅原芳人:自分はずっと「大滝さんのファン」だと思っていたんです。でも、それが勘違いだということに、亡くなった後で初めて気がつきました。「先生だったんだ」ということが明確になったんです。僕はただ音楽を聴くだけじゃなくて、「どうやって教えを得ようか」という風に向き合ってたんだなと。

Exhibitions

大滝詠一 特別企画展『Eiichi Ohtaki’s NIAGARA 50th Odyssey』
2025.07.11 fri - 08.17 sun