Special Feature
2024.11.11
オアシスの30年、そしてこれから――ジル・ファーマノフスキー&河村康輔「Oasis Origin + Reconstruction」インタビュー
2009年の解散から15年が経ち、待望の再結成が決まったイギリスの大人気バンド・オアシス。New Galleryでは、1994年以降長きにわたり彼らを撮り続けた写真家のジル・ファーマノフスキーと、コラージュアーティストの河村康輔による企画展「Oasis Origin + Reconstruction」を開催している。
ジル・ファーマノフスキーは、ポール・マッカートニーをはじめ、ピンク・フロイド、スティーヴィー・ワンダー、ヴァン・モリソン、ビル・ウィザース、ザ・フー、ザ・クラッシュ、イギー・ポップなどを撮影してきた、20世紀後半ロック音楽史の生き字引ともいえる人物。そんな彼女の「最高傑作」とされているのが、1994年から2009年までに撮影されたオアシスのドキュメンタリー写真である。
一連の記録写真に加えて展示される、ポートレートやロゴ、ジャケットを大胆に再構築したコラージュ作品を制作したのは、『AKIRA』アートウォールプロジェクトなどでも知られるポップアーティストの河村康輔。シュレッダーで裁断した素材を手作業で貼り合わせる河村独自の手法により、オアシスの新たなイメージや歴史が立ちあらわれてくる。
今回のインタビューでは、オアシスを通じて結ばれた、ジルと河村の両作家に話を伺った。撮影や制作の背景や、日英の異なる視点から捉えたバンドの姿に迫る。
河村康輔インタビュー
――まずはオアシスについて、河村さんの個人的な記憶をお聞かせください。
河村康輔:初めて聞いたのは高校生の頃、友達の家でのことでした。当時は自分が好きなジャンル以外には全く興味がなく、オアシスのようなロックはあまり聞いていなかったんです。でも、友達がオアシスを聞かせてくれた時に、すんなり自分の中に入ってきたような感覚があり、「かっこいいな」と衝撃を受けました。
友達がテープに録音してくれた後に、あまりに聞きすぎたのでCDを買いに行った記憶があります。当時は輸入CDが今よりすごく安かったから、子どもでも簡単に買える時代でしたね。
大人になってからも要所要所でオアシスを聴くことがあります。自分にとってのクラシックみたいな感じですよね。まさかこうして関わるなんて想像もしていませんでした。
――今回河村さんが手掛けた新ロゴについて、最終デザインをギャラガー兄弟が許諾しなければ世にお披露目できなかったと聞いています。想像するに、非常に緊張感のある状況だったのではないかと。
河村康輔:そうですね。最初に自分に声をかけてもらった段階で、「ギャラガー兄弟がOKを出さなければ、作ったものが全部ボツになる可能性がある」と聞いていました。しかも、「ボツになる可能性は半々よりもあるけど、大丈夫か?」と。
でも自分としては、バンドの顔となるようなオフィシャルロゴを、ブートではなく正式に触ることができる嬉しさの方が上回っていて、NGが出るかどうかはあんまり考えていませんでした。たぶん、10より多いくらいのバリエーションを作って、送ったときには「やりきった」という感覚だけがありました。
これまでいろんな仕事をやらせてもらってきましたが、一番気をつけなければいけないのが「ロゴをいじる」ことなんです。こうしたセンシティブな部分を公式で触らせてもらえたことは、本当に特別な感覚で、不思議な気持ちですね。
――ロゴのコラージュは、オアシス再結成の折にバンドの歴史を振り返るような、重層性を持った作品になっていますね。
河村康輔:ただ、制作する時はオアシスが再結成するなんて思いもしなかったんですよ。もともとはオアシスメジャーデビュー30周年の企画として始まっていて、チームのみんなとは「いつか再結成してほしいよね」、「でもそんなの夢みたいな話だよね」と話していたくらいなので。
でも、だからこそ、デッカロゴの作品には「これを作ることによって、またライブが見られるようになったらいいな」という気持ちを込めていました。2つの時代の異なるデッカロゴを立体的に重ね合わせて――2つの素材は、見た目も微妙な差なんですけど――、歴史の厚みを乗せた新しいロゴにしたかったんです。
ーーシュレッドした素材を貼り合わせる手法は、河村さんのシグネチャーとなっている作風ですが、今回の制作にあたって特別に考えたことはありますか?
河村康輔:僕が普段自分の作品で使っている写真は、多くの人にとって馴染みのないものです。だから、僕が素材をコラージュして提示して、はじめてオリジナルとして認識されるようなものなんです。でも今回の素材って、オアシスのファンの方からしたらすごく馴染みのあるものじゃないですか。ロゴやジャケット、ポートレート写真は、それだけでよく知られたオリジナルとして成り立っています。
そんな見慣れた対象を扱う上で、どれだけ作品としてのオリジナリティを出すか、どれだけ自分の作風に引き寄せられるか、ということはすごく考えました。
――その作業には、普段の制作とは異なる難しさがあるのでしょうか?
河村康輔:すごく説明しにくいんですけど、やっぱり何かあります。近くで見るとすごくズレているけれど、視点を引けば引くほどオリジナルに近づくようにしたかったんです。たとえば10メートル遠くまで離れたら、目の錯覚によってほぼオリジナルと変わらなく見えるものにしようと。それだけ決めて、二重から三重に紙を貼りながら、徐々に絵ができていきます。
ですが、シュレッダーのズレも全てが規則的ではなく、「どのくらいズラすか」を細かく決めているわけではないので、本当にその場その場で感覚的に作っているんです。言葉にするのが難しい、感覚の領域なんですよね。
――手作業で紙を貼りながら、「ここだ」というタイミングがある。
河村康輔:それをずっと探っています。もうエゴに近い……いや完全にエゴなんですけど、本当に「気持ち良い」か「気持ち良くないか」だけの判断なんですよ。1cmズラして貼ったら気持ち良くなる場合もあるし、1mm違うせいで気持ち悪い場合もある。自分のバランス感覚だけを信じて、常に「気持ち良い」か「気持ち悪い」かという二択で作っている感じですね。
「これで完成でしょう」と貼りきって乾かして仕上げまでした作品でも、「ここの2本だけ気持ち悪いな」と思ってしまったら、もう一度出力して貼り直すなんてことがたまにあります。見てくださる方の多くは気づきもしないと思うんですが、やっぱり自分はずっと気になっちゃうから。完全に、自分の快楽で作っているようなものですよね。
――非常に個人的な快楽を追求する作業であると。それが公式のお墨付きのもとで公開されるとは面白いですね。
河村康輔:今回の制作も、1年ずれていたら話が来なかったかもしれないし、いろんな歯車が合わなければ成立しないような仕事だと思います。だから、自分はすごくラッキーな人間なんだなって(笑)。本当にそれに尽きます。
――オアシス再結成が寝耳に水だったということですが、河村さん自身はいつ知ったのでしょうか?
河村康輔:作品が完成して発表された後に、再結成を知りました。たしか、X(旧Twitter)をぼーっと眺めていたら、「オアシス再結成」って流れてきたんですよ(笑)。その時は本当にびっくりして、信じられなくて。
僕自身すっごい嬉しかったんですけど、ここ一週間前くらいまで「本当なのか?」と半ば思っていました。周りの人らがチケットを買ったり、チケットが高騰している話を聞いたりして、ようやく真実味が増してきたように思います。本当に再結成するんだなあという実感が出てきて、やっと本当に嬉しい感じになりましたね。
――偶然のタイミングだったとしても、注目の展示となりましたね。
河村康輔:それも含めて、やっぱりラッキーな人間なんだと思います(笑)。