Special Feature
2024.11.11
オアシスの30年、そしてこれから――ジル・ファーマノフスキー&河村康輔「Oasis Origin + Reconstruction」インタビュー
ジル・ファーマノフスキー インタビュー
――ジルさんは1994年から2009年にかけて撮影したオアシスのドキュメンタリー写真を、ご自身の最高傑作としているそうです。これまでに名だたるロック・ミュージシャンを撮影してきたジルさんにとって、なぜオアシスとの仕事が特別なのでしょうか?
ジル・ファーマノフスキー(以下、ジル):まずオアシスの写真が特別なものになった理由は、私の年齢に起因すると思います。1994年の時点で私はすでにキャリアを積んでいて、経験が豊富でした。その頃には、ガールフレンドのような関係になるには年を取りすぎていて、かといって母親になるには若すぎる。女性の写真家として、このタイミングは完璧だったように思います。
それから、いつでも撮影許可を出すアーティストは決して多くありません。けれど、私はずっと近くにいることを許されました。ノエルはヴィジュアルに強い関心を持っている人で、自分たちに起こっていることの全てを記録すべきと考えていたのだと思います。
――被写体として見た時、オアシスにはどのような印象がありますか?
ジル:言葉を当てはめるなら、「難しい」。簡単ではありません。私が初めてのアーティストを撮る時は、必ずライブから入るようにしています。そして初めてオアシスのライブを見た時、すごくエキサイティングなことが起こっているような雰囲気がありながらも、視覚的には何も起こっていない、そんな奇妙な感覚がありました。
リアムは両手を後ろに組んで歌いますよね。ノエルもクライマックスで飛び跳ねたりするようなギタリストじゃありません。ボーンヘッドやトニー・マッキャロルも指示を仰いでいるような感じ。要するに、アクションがほとんどないんです。
写真家としては、動きの少なさが課題となりました。けれど、会場には緊張が張り詰めていて、それはすごくクリエイティブな緊張感でした。私はその空気を撮ることが自分の仕事だと思ったんです。
――楽屋の写真も数多くありますが、メンバーの人柄といった面ではどうでしょう?
ジル:思い出してみますね……そう、彼らにはユーモアがあって、とにかく面白かったです。私の経験から思い出されるのはビートルズでした。どちらのバンドにも、メンバー同士のユーモアのケミストリーがあるんですよね。
胸を打たれるような印象を残しているのは、オアシスがよく楽屋で自分たちの曲を演奏していたこと(笑)。彼らは自分たちの音楽が好きでたまらないみたいなんです。
それから、リアムは生意気で予測不能で手に負えないんだけど、とにかく美しい。ノエルは「ザ・ボス」(ブルース・スプリングスティーンの愛称)のような存在ですね。ボーンヘッドは、私がこれまでに出会った誰よりも面白く、まるでコメディアンのようでした。
それを象徴するのがあの写真です。空港でみんながヘトヘトになっている中、ボーンヘッドがベルトコンベアに乗り込んでいるのを見て笑っているところ(笑)。彼らと一緒にいる時間は本当に面白かったですね。
――2024年には「the Abbey Road Music Photography Awards」でICON賞を受賞したジルさんですが、式にはノエルがサプライズで登壇したそうですね。それは長期的に築かれた良好な関係の証のように思えますが、その秘訣は?
ジル:1994年から関わってきたオアシスは、私にとって「赤ん坊」のようなバンドです。でも、最初に撮影してから30年も経っただなんて、受賞するまで気づきませんでした(笑)。
そう、1994年の時点で私には、ミュージシャンとの関係構築について、ある種の経験と理解がありました。グループの仲間入りをするのではなく、ツアー中のプレッシャーやメディアからの集中砲火を理解した上で、バンドと仕事をするということです。
実際、信頼関係はありましたし、彼らがレコーディングやなにかで集まっている時には「来る?」とメールをしてくれました。そして多くの場合、私は報酬をもらいませんでした。私にとってそれはアーカイブの一部(※)だったんです。プライバシーの観点で、私が公開していい写真、悪い写真を心得ていることも、彼らはわかっていたはずです。
※ジルは数々のロックミュージシャンの写真をアーカイブ・出版するための音楽写真家団体「rockarchive」を1998年に設立している。
――今回の展示についてはどのように進行したのでしょうか?
ジル:膨大なアーカイブがある中から、大小でさまざまな時代の写真を提供しました。セレクト自体はNew Galleryが行ったのですが、河村さんの作品と合う並びになるよう希望を出しています。今日来てみて、私はとても満足しています。本当に素晴らしいですね。
――特に記憶に残っている写真について教えていただきたいです。
ジル:多すぎて選べません(笑)。どうぞ選んでください。
――では、ギャラガー兄弟が並んで座っている、大きな写真について。
ジル:これは「Wonderwall」のMV撮影の時の写真です。ビデオの制作時はスタッフがリハーサルをしたりセットを組んでいたりするので、メンバーはどこにも行けません。だから、ジャーナリストにとっては絶好のチャンスなんです。その空き時間で撮った写真ですね。
――それから、こちらのメンバーが並んだ写真は?
ジル:『Be Here Now』を録り終えるくらいの、エア・スタジオでの写真ですね。オアシスにとって非常に困難な制作で、その時期を超えたことを祝う一枚でした。兄弟のユーモアがよくあらわれていますね。この写真はすごくお気に入りです。
――ジルさんのような音楽写真家を志す人にアドバイスすることがあれば教えてください。
ジル:少なくとも半分はアクセスで、残りの半分はカメラのスキルだと考えています。そして、これは何度か若い人に言っていることですが、第一に写真に興味を持ち、次にグループと知り合うことに興味を持つべきだと思います。
もちろんミュージシャンのファンなら、ファンがなにを喜ぶか理解できます。しかし私はファンでありながら、写真家としてはファンでない。部外者でも、観察者でもない立場にいるんです。
――最後に、オアシスが再結成したことについて、ジルさんがどのように感じたのか教えてください。
ジル:私も他のみなさんと同じタイミングでそのニュースを聞きました。私は「本当に再結成したら誰よりも早く知らせてね」とノエルに言ったんです。彼は「俺が賭けの胴元のところに行くところの写真を撮らせてあげるよ」と。結局彼は知らせてくれなかったから、「賭け事のお店は間に合った?」とメールをしました(笑)。
再結成は、ファンやオアシスにとってすごくいいことで、私も幸せな気持ちでいっぱいです。けれど、チケットを巡る争奪戦が起きて、私や知り合いの誰一人手に入れることができなかったんです。だから、招待してくれたらいいんだけど。