Special Feature

2026.03.09

マテリアルを通して世界と向き合う4作家、その選定とキュレーションの舞台裏――入澤聖明&青木彬インタビュー

作品との対話

──ここからは、それぞれご担当された作家の作品について伺います。まずは青木さんから、沖田愛有美さんの作品について。

青木彬:すべての作家に言えることですけど、それぞれが制作で使う道具や素材が、社会的な状況の変化によって調達が難しくなったりする。ものだけでなくスタジオのような環境もそうで、現代のような紛争の絶えない時代においては、制作のための足場自体が自明ではないわけです。そういった問題意識をとくに読み取れる作家の一人が沖田さんです。彼女の作品は、時間の経過とともに色の輝きや質感が変わってくるんですよ。漆の経年変化によるものです。常に変化していく漆を、単なる素材としてではなく自律的な存在として沖田さんは捉え、人と自然をつなぐ媒介者として見ています。そこから自然環境と人の営みの相互作用、さらにそれらの関わりの中で紡がれてきた民俗や神話にも関心を広げています。今回のテーマとすごく親和性があるなと思いました。

──続いて、葭村太一さんについて。

青木彬:葭村さんはまた少しタイプが違うんですけど、Googleマップのストリートビューを散歩する中で見つけたグラフィティのモチーフを立体に起こしていくんですよね。グラフィティは本来すごく身体性を伴って発見されたり制作されたりするもので、都市の中で生活していれば自ずと目にするものです。でも実際に目にしたものから着想を得るのではなく、あえてストリートビューで出会ったモチーフを起点にしていく過程に、デジタルネイティブと言えばいいのか、世代特有の感覚があります。

──ストリートビューの視点でしか見ていないから、独特のパースがかかっているんですよね。

青木彬:そうなんです。QRコードからストリートビューにリンクすることで、葭村さんが見ていた視点を追体験できるようにもなっているんですけど。目の前の自然環境だけではなく、多層的な世界の捉え方を表現しながら、それがものすごくフィジカルな、いい香りもする木彫として体積を伴ってあらわれています。アイロニーでもあるし、テーマとの面白い響き合いを感じています。

──入澤さんからは、倉敷安耶さんについてお願いします。

入澤聖明:倉敷さんは代表作の一つとして、東洋・西洋問わず名画と呼ばれるものを下敷きにしながら、現代的なイメージを付与していくというやり方です。描かれている女性たちが、美術史や宗教的な構造の中で、どんなイメージを割り当てられ、消費され、見られてきたか。昨今のアートではオーソドックスなテーマの持っていき方かなとも思うんですけど。

しかし、彼女の描いてる人ってイメージの集積だったりするわけですよ。私がすごく同時代的なリアリティを感じたのは、SNSやAIの発達でイメージが溢れかえって、何がフェイクかリアルか分からなくなってくる中で、日常的に接している情報によって勝手なイメージを背負わされている存在がいるのかもしれない、あるいは自分たちもそうなのかもしれないと、想像を及ばせるような表現になっているんじゃないかなと。

──藤田紗衣さんについてはいかがですか。

入澤聖明:版画やデジタルイメージの視点から裏側にある構造まで言及していくようなスタイルですね。窓ガラスに貼った作品もそうなんですけども、ちっちゃく描いたイメージを拡大し、拡大して、ドットが見えるぐらいのものになっている。張り出された紙の一枚一枚がもしかしたらドットの単位かもしれない。面白かったのは、アシスタントの人と一緒にずっと一行ずつ貼っている様子が、窓にプリントアウトしているようにも見えてきたんです。

アナログとデジタルの端境期にいる我々だからこそ持てるリアリティがあるんじゃないかなと思っていました。やきものに印刷する技術自体は業界では当たり前で、昔からやっている人もたくさんいるんですけども、彼女が載せているのは、記号の集合体で一つの図像を作り出すアスキーアートなんですよね。一度焼くと元に戻らないやきものにそれを焼き付けている。不可逆性も含めて、物質とイメージの構造にうまく踏み込んだ、今の時代だからこそできる表現なんじゃないかなとは思っていました。

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2026.02.27 fri - 2026.03.15 sun