Special Feature

2025.02.21

モノクロームの線でダンスフロアを描く――Jun Inagawa個展「The Private Jündelic Reel」インタビュー

1999年生まれのイラストレーター・DJのJun Inagawa。漫画やアニメの筆致で描かれたポップなイラストが米国ストリートシーンで評価されたのは彼がまだ10代のこと。以降、コラボレーターにはNEIGHBORHOODやParadis3、VLONEといった世界的ブランドのほか、Billie Eilish、銀杏BOYZ、石野卓球などなど枚挙に暇がない。Instagramを起点としたグローバル環境において、著名人からの相次ぐラブコールを受けて吊り上がった「Jun Inagawa」ブランドを傍らに、彼はDJやバンドといった音楽活動に傾倒し、そして原稿用紙を積み上げていた。曰く、「漫画家になりたい」のだとJun Inagawaは語り始める。

「Jun Inagawaの呪い」からの解放を目指して

――今回の展示では白黒の漫画の1ページのようなイラストが印象的です。以前のような鮮烈なカラーを用いたポップなイメージからは離れましたが、これまでも「漫画家になりたい」という発言は各所でされてきましたね。ある意味でJun Inagawaさんの原点回帰とも捉えられる展示になっているように思いました。

「漫画家になりたい」というのはずっとあります。それこそ高校を卒業してアメリカから日本に帰ってきたタイミングで「少年サンデー」の賞に応募して、落ちたのが悔しくてLAに戻ったという経緯があって。

だから本当は、向こうでアーティストをやろうと思ったわけでもなくて、漫画家になるための経験を積みたいと思っていたんですよ。傍から見れば「アメリカでスターダムを駆け上った」みたいになってますけど、実際はすごい成り行きで……スケーターの絵をInstagramにあげていたらSean Pabloの〈PARADISE〉からTシャツを出すことになったり、向こうのラッパーから「絵ちょうだいよ」と言われて家に届けに行ったり、僕も何が起こっているのか全然わからないまま、流れに身を任せて謎のムーブばっかりしていて。

「これが仕事になるんだ」とか「これで生きていく」とか、全く考えてなくて。当時17歳くらいの僕にとっては、「自分の絵を好いてくれる人がいるんだ」っていう、それが嬉しかったんですよ。そのまま何も考えずに普通に描き続けていたら「Jun Inagawa」というものができてしまって。それでも「漫画家はいつでも目指せるし、まあいっか」って。

――それから逆輸入的に日本に帰ってきて、初の個展「DESTROYERS(萌)」(DIESEL ART GALLERY)を開いたのが2019年。2022年の2回目の個展「BORN IN THE MADNESS」(DIESEL ART GALLERY)の後には、『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』がアニメ化します。これはある意味で、漫画家にとっての夢とも言えると思います。

アニメに関しては、僕は原案という形で参加させていただきました。
だけど当時周りのスピードに置いて行かれ始めた時期で、自分はまだ何かを探していた時期なので自分にとってこの作品はまだ混沌と迷いが可視化している気がします。
『マジデス』があって今があるし、作品や制作人の方々にはすごく感謝しています。

――消化不良のまま突き進んでしまった部分もあると。

ずっと引っかかってたものがあるんですよね。「萌えxストリート」だって祭り上げられて、「Jun Inagawa」というものが自分にとって良いものなのか悪いものなのか、自己分析、自分の美学を固める前にリミットがかけられたというか、勝手に自分でレールを敷いたというか。そのレールになんとか乗って行ってた感じです。

そういう事態に気づいたのが日本に帰ってきて3、4年目くらいでした。別に自分はめちゃくちゃお金が稼ぎたくて絵を描いているわけではないし、セレブリティーになりたいわけでもない。だけど、傍から見たら違うじゃないですか。わかっているけど、物事はどんどん進んで……そんな混沌としてる中で出会ったのがDJとダンスフロアでした。

――パーティ「MAD MAGIC ORCHESTRA」(2023年末に終了)の主宰をはじめ、エレクトロバンド・Frog 3の活動など、音楽方面での活動も精力的に行っていますね。

でも最初DJをやった時は「イラストレーターがDJね、はいはい、お遊びなんですね」って受け止められたんです。その偏見にムカついたり、負けそうな時もありました。だけど音楽がまだ知らないところへ連れて行ってくれるような感じがして、それから音楽に没頭して気がついたら音楽とクラブが大好きになって新しい自分の居場所になりました。もはや最近出会う友達は「ジュンって絵も描くんだ」と言うくらいになってきました。

ダンスフロア出会う友達は僕の作品を見て「絵めっちゃうまいね!」みたいな、シンプルにそれで片付けてくれるんですよ。そんなこと言われたの久々だなって(笑)。そうやって理屈もなく好いてもらえるのがすごく嬉しくて。

逆に僕は、今まで「Jun Inagawa」としての理屈や説明を自分で作っちゃっていたんです。本当はただ好きだから、描ける手と描ける脳があるから、小さい頃から今に至るまで描いているというだけなのに。

DJも一緒で、お客さんの感情って結局コントロールできないんですよ。自分が流した音の余白をお客さんが勝手に埋めていって、いろんな踊り方をして、いろんな感情になるので。絵もそうあるべきだなと、そういう意味でも原点回帰したように思います。

Exhibitions

Jun Inagawa "The Private Jündelic Reel"
2025.02.07 fri - 02.24 mon