Special Feature
2025.12.01
アイドルとして、ある人生を羽ばたく――池田瑛紗個展『Wings:あひるの夢』インタビュー
羽ばたいていくための言葉
ー今回の個展は、これまで池田さんが綴ってきたブログがすべての作品に結びついています。池田さんのブログは文量が多く、オマージュやパロディ、造語などが散りばめられていて、単なる日記から一歩踏み出た読み物という印象です。ご自身にとってブログはどのようなメディアなのでしょう?
乃木坂に加入したばかりの頃、自分から発信できてファンの方と触れ合えるのがブログしかなかったんです。でも、そのブログも最初はメンバーのリレー形式で、11日に1回しか更新できなかった。「ここしかない」と思って、なんとか自分の魅力を見つけてもらおうと必死で、毎回全力で書いていたら文章が多くなったりして。
それから今に至るまで、ブログは私にとってすごく大きな存在です。アイドルになる前の私と、アイドルになってからの私を結びつける場所としてーーアートとアイドルが結ばれる場所としてーー、ブログは今回の展示に欠かせない存在でした。

ーそんなブログからの抜粋テキストを、オーガンジーにプリントした作品を展示されています。300を超える記事の中から、どのように選んだのでしょうか?
うーん……フィーリングの部分が大きいです(笑)。でも、書いているときに「この言葉、好きだな」と思ったテキストは自分で覚えているんです。だから今回も「あの言葉を使いたいな」というのはスッと出てきました。
ー言葉による表現は、美術分野の視覚表現とは異なるものですが、ご自身の中でどのように位置づけていますか?
ひとくちに視覚表現といっても、絵や映像、文字のレタリングなどいろいろあると思います。でもアイドル活動や学生生活を通じて、自分が「できる」と思っていた視覚表現がすごく小さな世界だったことに気づきました。
私にとっては文章を書くことも絵を描くことも映像をつくることも、「なにかを伝えるためのツール」であることは変わりません。だから今回の展示では、自分の可能性を狭めずにやってみようと思いました。

客観的に向き合うこと
ーでは、各作品について伺います。会場に入ってまず目に入るのは、オーセンティックな視覚表現としての自画像です。これは美大受験の定番モチーフでもあるのだと思いますが、どうして自画像を描くことになったのでしょうか?
私の中では、デッサンといえば石膏像のイメージなんですけど、今回の個展で石膏像を置いてもつまらないなと思って(笑)。それで「自分と向き合う」という意味も込めて、普遍的なモチーフとして自画像を置いてみようと考えました。
ー自画像は3点、それぞれ異なるアングルで描かれていますね。
鏡を置いて、3点同時並行で描きました。真ん中に一枚あって、その下と横にも鏡を置いて。デッサンするときは対象を客観的に見なきゃいけないけど、一枚の絵に長く手を入れていると「この形おかしいな」という感覚が鈍くなってくるんです。変に集中しちゃうのを避けるための手法として、3枚描きましたね。
ー多面鏡で複数の自画像を描く手法は、予備校や藝大の授業でも教わるものなんですか?
いや、普通はしないです(笑)。自分と客観的に向き合うというテーマにも合っていたので、鏡に囲まれながら描いていました。

ー続いて、19点の写真が展示されているエリアについて。写真という形式も客観表現の一つだと思いますが、今回はカメラマンの岩澤高雄さんに、池田さん自身がディレクションを行ったそうですね。
最初に「翼を入れて撮影したい」というイメージがあったんです。それからロケーション、ヘアメイク、衣装も自分でディレクションして、時間帯まで決めて撮影しました。展示全体がモノクロ基調なので、空や海の水色を差し色にしたいなと思って。
実は“あひる”だけでなく、“白鳥”という隠れモチーフもあります。どちらも水辺の鳥なので、海に行って……さすがに水には入れませんでしたけど(笑)。
ーキャンバス地やアクリル板へのプリントも、池田さんが指定されたそうですね。
そうですね。あと、写真が19点なのは、私が19歳で乃木坂に入って、初めてブログを書いたから、という語呂合わせ的な意味もあります。

