Special Feature
2025.12.01
アイドルとして、ある人生を羽ばたく――池田瑛紗個展『Wings:あひるの夢』インタビュー
こんな人生もあったんだ/私からはこう見えてるよ

ーそして、ステージに立つ池田さんの視覚が、半円柱型のスクリーンに投影されるインスタレーションがあります。どのような経緯で制作に至ったのでしょう?
この個展で一番やりたかったのが、「視点の共有」というインスタレーションなんです。私は初めてステージに立ったときの光景を今でも鮮明に覚えていて。その記憶を自分の中に閉じ込めるんじゃなくて、他の人にも体感してもらいたいと思いました。実はいろいろと無理があったんですけど、なんとか実現できるように頑張りました。
ー「無理があった」というのは?
まず「実際のライブで映像を撮りたい」ということ。スタッフさんに相談して、自分で360度を撮れるカメラを持って撮影できることになりました。でも、その360度映像をどうやって体験できる形にするかですごく悩んで。最初はドーム型や帯状スクリーンの案もあったんですが、最終的に、現在の形になりました。考えに考え抜かれた形で、ようやく皆さんに体験してもらえる形になりました。

ー私も体験しましたが、大勢のファンの皆さんがこちらを向いて手を振っている光景は、ある種のスペクタクルですね。
そうですね。もちろん「私からはこう見えているよ」という視点ではあるんですけど、「この光景を私だけが独り占めするのは申し訳ないな」という気持ちもあります。ひとつひとつのステージは、本当に一生忘れられない記憶なんです。
ー先ほど「こんな人生もあったんだ」と、ご自身をメタ的に捉える発言もありました。この作品は「とあるアイドル」の一人称ドキュメンタリーのようでもあるようにも感じます。
私は自分の人生をどこか他人事みたいに眺めているところがあって、いつも「現実感がないな」と思って生きています(笑)。でも、この現実感のない光景を与えてくださっているのはファンの皆さん。だからこの作品は「ありがとう」という感謝の意味も込めて、私の視覚を通したお返しという気持ちでつくりました。

アイドルとアートを掛け合わせて
ー今回の個展では、音響やインセンス、ラグ、キャンディなど、視覚だけでない五感を通じた仕掛けも用意されています。
置いてきぼりになる感覚がないように、五感で楽しんでもらえたらと思いました。目ではすごく綺麗なものを見ているのに、耳からは外のクラクションが聞こえてくるような状況だと「耳がかわいそう」と思うんです。個展は「空間の提供」でもあると思うので、この空間でしか得られない感覚を作りたいなって。
ー視覚だけでない総合的な表現への関心は、藝大での学びも影響していますか?
そうですね。私は「デザインをやりたい」と思って入学したんですが、教授が「もっと派手なものを作っちゃいなよ!」みたいなノリで(笑)。それで「なるほど」と思って。少なくとも学生のうちは、いろんなものをつくった方が楽しいだろうなと思いました。だから今回もいろんな表現に挑戦しています。
ー「美術以外の道はなかった」と仰っていましたが、アイドル活動も経験されているいま、どのような未来を描いていますか?
私ひとりの技術や発想でできる美術表現には限りがあります。それに、ひとりのアイドルとして見ても、自分はすごく凡庸な存在だと思っています。
だけど、その両方を掛け合わせたら、なにか新しい可能性が見えてくるんじゃないか。最近ようやくそう思えるようになってきました。それを少しずつ形にできたらいいなと思っているので、今回の個展はとても良い機会になりました。
ー最後に、来場される方々に向けて何かありますか?
えー……いきなり気が変わって作品が変わっちゃったらごめんなさい。今、心の中で戦っているところです(笑)。もちろん大きい作品は変わらないと思いますけど、なにか足されるかもしれません。


Text by namahoge
Installation view by Naoki Takehisa
Teresa Ikeda's photos by Takao Iwasawa
