Special Feature
2026.04.16
路上からキャンバスへ──「Neo-Arts-Revolt」出展作家インタビュー
AI時代に不完全さを残す──中尾舜

──台北の個展に出品された作品を、日本で初めて展示されたということですね。
中尾舜:そうですね、新作ではないんですけど、去年台北のギャラリーで展示した作品を持ってこさせてもらって。日本でこんなに大きなサイズで見せるのは初めてです。
──今回のシリーズ名は「True to Life」です。
中尾舜:不完全な美しさを描くっていうのが自分の中のテーマです。基本的にポートレートの作品を作るんですけど、人間ってやっぱりいろんなノイズを帯びてる生き物だと思っています。欲とか怒りとか喜怒哀楽が激しい生き物なので、ノイズをもっと表に出せたらなっていう思いがあります。加えて、強く意識したわけではないんですが、同時代性で言えばやはりAIに作れないものはある種の不完全性だろうなと考えました。
──たしかにAIは言葉を繋げてどんどん角を取り、無難なものにしていく特徴がありますね。
中尾舜:完全なものや正しいものはAIに任せとこうという気持ちがあります。なので、スプレーのドリップが垂れてたりとか、飛沫が飛んじゃったりとか、失敗した箇所もそのまま修正せずに完成に持っていっちゃおうっていうのがこのシリーズの決め事になりました。まったく技術否定派ではないんですけど、トライアンドエラーしていくのが人間だと思うんで、人間関係だったりいろんなものを、1枚の画面として表現できたらっていうのがこのシリーズの大きなテーマです。
──このシリーズではアクリルのほかにスプレーも画材としてお使いになっているんですね。
中尾舜:グラフィティの文化に興味があります。グラフィティってすごく身体性を伴う活動で、街中での「落書き」は犯罪行為ですし、逮捕される可能性もあるわけです。つまり権力との一種の緊張関係があるじゃないですか。でも同じ落書きとも言えるSNS上での投稿には覚悟がほとんど必要なく、布団の中から人の悪口や批判的なこともすぐ言えちゃいます。だから自分の発言とか行動に覚悟を持ちたいですねっていうテーマも密かに込めているつもりです。
──「He Left a Coke」という作品について伺います。描かれているのは女性の肖像で、生活感ある一幕という印象を受けますね。
中尾舜:なんかお昼にコーラ飲んですぐ帰る彼氏に対してムカついてる女の子みたいな状況です。こんなふうに、一枚ごとにストーリーを想定しながら描いています。
──ストーリーやペルソナはすぐに思いつくんですか?
中尾舜:ふだん街を歩いててすれ違った人の、その人がどこから来たかとか家に帰った後の姿とかを想像して描くというのが結構多いです。都会には人っていっぱいいるじゃないですか、その人々のそれぞれにいろんな思いや生活があるんだなって思うと、その情報量に頭がやられてしまいそうになる時があります。なのでそれを処理するというか、絵に昇華してしまうと自分のなかでは落ち着くんです。
──お花をモチーフにしたシリーズ作品も展示されています。なかでも、黄色い線のようなものが花の上を横切っている絵が印象的です。

中尾舜:それ、マスキングテープなんです。人と人との繋がりを表現したいなと思って描いた作品です。マスキングテープぐらいインスタントで薄っぺらい繋がりの人ってすげえ多いなと思って(笑)。
──めっちゃ面白い見立てですね(笑)。
中尾舜:マステって簡単にはがせて、ノリも残らないし簡単に切れるじゃないですか。SNSとか見てると、そういう繋がりが多いですよね。タイトルはあえて「Left Behind」ってつけました。「残るもの」とか「残されたもの」みたいな。
──いつもイラスト調の作品を手掛けられているんでしょうか?
中尾舜:コロナ前まではイラストレーターとしてクライアントワークをやっていました。だけどコロナ禍で仕事がかなり減ってしまいまして。イベントの広告やフライヤーをやらせていただくことが多かったんです。その時「人から発注されなかったら絵を描けないんだ」と気づき、もっと自己表現として描こうと思って、キャンバス作品を作り始めたという経緯があります。

人間関係がゼロ距離の路上から──silsil

──今回展示されている新作はまず鮮やかな黄色が目に飛び込んできます。
silsil:シリーズ自体は前から取り組んでいるもので、すでに販売もしているから在庫が全然なかったんです。グループ展の企画内容を聞いたときに、なんとなく黄色い作品がいいなと思って、新しく作った感じですね。
──「Change...」というシリーズですね。「Change the Distance」や「Change the Ritual」など、変わりゆくものが各作品のタイトルになっていますね。
silsil:コロナ禍の時に、私たちはどう変化するのだろうかみたいな考えを切り口に作り始めました。最近は人と人との距離がテーマになってきて、「近いのに遠い」ような、「知ってるけど全然知らない」ような感覚を扱っています。作り方としては、一連の映像の中から写真を撮っていくように、シーンを切り取っていくような感じです。
──近いのに遠い距離感というのは示唆的ですね。具体的にはどういうことですか。
silsil:いまはインターネットもあるしみんなそばにいるような感じがするけど、じつはわかりあえなかったり、心理的にはすごく遠かったりします。卑近な例で言えば、どこかお店に食べに行くにしても調べてから行きますよね。そういう意味で身近さは感じるしたくさん体験することはできるんだけれど、ひとつずつ理解しているかっていうか、経験としてはものすごく薄い可能性があるな、と。
──わかる気がします。経験が先取りされてしまうような。
silsil:それとは対照的に、学生時代に路上で絵を売っていた時期があるんです。地べたにシートなどを敷いて、自分の描いた絵やポストカードを並べて売ってたんですね。道路交通法がちょっとまだ緩かった頃で、当時の関西には、美大生が絵を手売りする動きがありました。いまでは規制が厳しくなっちゃって、公共空間で無許可でそういうことをすると取り締まられます。場合によっては前科ついちゃう……。だけど昔は警察の人も「若者たちがなんかやってるわ」みたいな感じで、おおらかでした。
──路上では人と人の距離がかなり近いですよね。
silsil:まさに距離がゼロなんですよ。絵を見て立ち止まるのはみんな知らない人だけど、突然悩みをぶわーって言い出す人とかいるんです(笑)。もう今後会うこともないから、そういう打ち明け話ができるのかもしれませんね。悩み相談もあれば、通り沿いで歌ってる人も、ホームレスのおばあちゃんも、路上にはいろんな人がいました。結構ドラマチックで。そういうのを経験してるので、人同士の距離感が作品の根底にあるのかなと思っていますね。
──ホワイトキューブでの展示だけでなく、商業のお仕事も並行されてると伺いました。
silsil:そうですね。ちょうどいま京都の大丸百貨店のビジュアルを担当してますし、あとは国内や海外だと台湾の音楽のイベントでライブペインティングを依頼してもらうこともあります。音楽は純粋に好きですし、そういうお仕事は楽しいです。人の心の動きや関係性に興味があるので、パフォーマンスでも同じテーマで制作を続けています。

スケーターの目が標識をキャンバスにする──YOHEYY

──鋼板に絵が描かれていますね。丸形や逆三角形など、道路標識ですよね。
YOHEYY:14歳の時からずっとスケートボードをやっていて、ストリートカルチャーが身近にある環境で育ちました。道路にあるものをモチーフに描いてみようと思ったのは、そういうストリートの表現の一部としてですね。もし自分の絵が実際に道路標識になっていたら、すごく面白い光景だなっていう。
──スケーターの視点では街の見え方が変わるという話を聞いたことがあります。
YOHEYY:スケートボードのためには作られていない建物を、スケートボーダーの目線で「どう使ったら滑れるんだろう」って見ることはよくしますね。視点がスケートボードになるというか。出身は大阪で、4、5年は東京にも住んでいたんですけど、昔は設備が整っているスケボーパークのような場所も少なかったので、街中でよく滑っていました。
──スケートボードのデッキ(板)に描かれた作品も3点ありますね。描かれている女性はどれも同じ人ですか。
YOHEYY:3人の異なるモデルさんです。自分が描きたい作品のイメージに合う表情で選んでいます。もともとスケートボードのデッキにはアーティストのグラフィックが入っているものもあり、キャンバスとしての意味合いが昔からあるのかなと。自分の使い終わったスケートボードのグラフィックを消してそこに描いていたこともあります。ただ、描いたデッキに乗ると絵柄が削れて見えなくなっちゃうんで、乗り終わった後のものに描く方がいいですね。
──描かれている人物のモチーフは最初から取り組まれていたんですか。
YOHEYY:描き始めた頃はメインにしていなかったんですけど、活動を始めたきっかけは昔の西洋画でした。油絵に惹かれて、高校の時に絵画を学びました。根本的には宗教画だったり、生命を思わせるような絵画に惹かれていたんだと自分では思っています。
──正方形の作品5点は空がモチーフになっていますね。
YOHEYY:普段描く絵のなかに空を部分的に入れることが多いんです。空は時間の流れだったり、朝日なら一日の始まりだったりという意味合いを込めていて、生命の始まりにかけて空に焦点を当てたシリーズです。4、5年ほど続けていて、小さいサイズで飾りやすいものとして描くことが多いですね。
──今回展示されている作品以外だと、どんな活動をされていますか。エピソードなどあれば教えてください。
YOHEYY:神戸のイベントで壁に描かせてもらったことがありました。そのイベントの発祥がハワイだったんです。そういう経緯があり、発祥の地のハワイでも一度描かせてもらったのがすごく印象に残っています。普段はエアブラシを使うことが多いんですけど、壁画ではスプレー缶で描きます。要領は似ているんですが、単純にキャンバスがすごく大きくなった感じで。高いところは登って描くので疲労感は全然違いますし、だいぶ離れて見ないと全体が把握できないんですよね。
──最後に、今回の展示について一言お願いします。
YOHEYY:自分は絵柄自体はそんなにストリートっぽくはないんですけど、逆に標識やデッキといった素材を選ぶことで面白くなるかなと思って、今回はそういう作品を選ばせてもらいました。スケートボードをずっとやってきたという背景を踏まえて見てもらえたら、「なるほどな」と感じて見てもらえるかなと思います。

Text by Tomoya Ohta
Photos by Naoki Takehisa
