Special Feature

2024.08.10

大きな波に飲まれずに、たしかな関係を喜ぶこと――夜間のみの仮設“展”舗「CCMS experiment OBON」コヤマシゲト&草野剛インタビュー

クリエイティブユニット「CCMS」は、アニメやゲーム、漫画など日本を代表するエンターテイメント業界で活躍するコヤマシゲトと草野剛を中心に、コミックマーケット(以下、コミケ)を主な活動場所としてプロダクトを発表してきた同人サークル。また、2012年にはオリジナルキャラクター「おばけちゃん」が誕生し、2023年秋にはニューヨーク州SOHOのギャラリー・NowHereにて「SHIGETO KOYAMA CCMS experiment OBAKE」を開催。そして今回、2024年8月、New Galleryにて「CCMS experiment OBON」がコミケの終わった夜間に開催される。「仮設“展”舗」と名付けられた本展で、重要なキーワードとなる「民藝」と「同人活動」の関係や、「お盆」というコンセプトについて、コヤマシゲトと草野剛に伺った。
(写真左から)草野剛、コヤマシゲト

「ものづくり」は人と会うための口実

──まず、CCMSはどのような集まりなんでしょうか?

コヤマシゲト:CCMSは基本的には「同人サークル」で、2010年にコミケに出店する際に、僕が草野さんと組みたいと言って始めたものでした。僕は普段アニメーションのポストプロダクションをやっていて、草野さんはパッケージデザインなどで映像業界や出版の仕事をしています。その仕事の中でもコストの問題などで実現できないことがあるので、普段できないことを採算度外視でやってみようよ、という実験ユニットみたいなものがCCMSで、あえてインディーズの場でやり始めたんですよね。とはいえ、ずっと一貫して実験的な本やプロダクトを作っているので、いわゆる同人サークルの中では特殊な部類に入るのかなと思っています。

草野剛:たとえば出版に関して具体的に言えば、特色やUVインク、疑似エンボスといった特殊加工が、装丁では使えるけど中のページに使うのは予算的に難しい、みたいな事態って普通の請負の仕事だったらよくあると思うんです。でも「全ページに特色の蛍光イエローが入った本を作ろう!」といっためちゃくちゃな挑戦って、自分たちがお金を持ち寄って運営すれば実現可能ですよね。そうした実験が印刷からものづくりへと領域が広がっていき、職人さんや町工場などと関係していくようになり、いつの間にかCCMSの方向性が変化していったんだと思っています。

──利益を度外視して、技術的な挑戦や本当にやりたいことを実現できる場であると。

コヤマシゲト:ただ、僕や草野さんが実験したものって、「そういう技術があるんだね」って知ってもらえれば別のプロダクトに転用されることもあるわけですよね。そういう意味では僕らじゃない誰かの足しになる可能性はあるし、僕としては元を取れてるっちゃ取れてるのかな、っていう気はしているんですけどね。

草野剛:コヤマさんはそういう考えなんだ。

コヤマシゲト:うん。赤字にならないようギリギリやるっていうのがCCMSのやり方だと思っているから、儲かってる実感は全くないです(笑)。

草野剛:だから利益率や生産性みたいなお金のスケールで測ればマイナスしかないんですよ。でもおそらく一番重要なのは、会うきっかけなんじゃないかな。大人になってから人と会うとなると、「週末お酒飲もう」となりますけど、コヤマさんってお酒が飲めないんですよね。それに多忙で、おいそれと声をかけられない。

そこでCCMSのような関係があると、無理やりにでも会うきっかけになる。結局、食事をしながらお互いに無駄話をするんですが、会う口実としてものづくりがあって。だから遊びの延長ですよね。まさに「サークル」なんじゃないかな。副産物的にプロダクトやものづくりがついてくるのであって、本質的にはコヤマさんと遊ぶための集まりというか……だから、そんなものはそもそも儲からないよね(笑)。

──あくまでインディーズとして始めたというのも納得できるお話です。

草野剛:作るものがないとコヤマさん遊んでくれないんだよね。

コヤマシゲト:そんなことはないけど(笑)。こう言ってますけど、週7日働いてるのは草野さんの方ですからね。

──でも、本業が多忙な上でCCMSの「遊び」があって、今回のような展示が実現していて。実はお二人ともすごくワーカホリックですよね。

コヤマシゲト:ああ……そうかもしれないです。

草野剛:いや、でもね、我々みたいなフリーランスのものづくりの人間って、お魚と同じで泳ぎが止められないんですよ。会社のような組織に保証されているわけではないし、なにか結果を出してはじめて価値が発生するんです。だから作っていないと不安だという状態が、少なからずクリエイターといわれる人たちにはあるはずで。

そんな社会的な背景があった上で、ものづくりで結ばれる関係性の中に、チャンスなのか希望なのか、なにか期待を抱いて集まっている側面はありますよね。技術や考え方や繋がりなど、お互いに持っているものを交換し合いながら、停滞せずに新しい未来に向かっていきたい、というようなところはあって。真面目な話にしたくないんだけどね(笑)。

コヤマシゲト:インスピレーションが突然降ってきて曲が浮かぶとか、無人島に行って一人で絵を描き続けるとか、そういうことは僕にはもう全くなくて。おそらくアーティストという存在から最も遠いところにある。極端に言えば、一人ではなにも作りたくないんですよ。絵を描く仕事をしているけど絵を描きたくないですし、状況が面白いから仕方なく描いてるっていうぐらい、絵を描きたくないんですよ(笑)。だけど、人と会えば何かが動くんです。

Exhibitions

CCMS experiment OBON
2024.8.10 sat ‒ 2024.8.18 sun