Special Feature
2024.08.10
大きな波に飲まれずに、たしかな関係を喜ぶこと――夜間のみの仮設“展”舗「CCMS experiment OBON」コヤマシゲト&草野剛インタビュー
小さな、スローな関係を喜べること
──手仕事という観点では、浅草の職人が手染めするてぬぐい「はいどあんどしーく」や、徳島県の三好敷物がつくるラグマット「おばけちゃん」などがあります。
草野剛:それも関係を楽しむために発注をかけているところがあります。CCMSの小さい規模と一致して、小ロットでも実現可能なものづくりとなると、職人さんの手仕事が視野に入ってくるんですよ。それがたまたま僕らの考えや、僕らが愛でたいものと重なって、自然と選択肢にあるという感じで。日本の各地にある生活周りの品とデザインの相性っていいなと感じるし、そういった意味では、僕らにとってはすごく実用的な目的があるんです。
──オタク文化における「地域性と伝統」と、日本文化における「地域性と伝統」が混ざっているのがユニークですね。
草野剛:たぶんどちらも、どこにでもいる当たり前の人たちの物語でしかないんだと思うんです。いわゆる「民藝」だって日用品を作っていただけで、買うのは庶民なわけじゃないですか。オタク文化に関しても、社会がしんどくてコンテンツを求めた人たちという意味でいうと、日本中にも世界中にもごろごろ存在するわけで。民藝もオタク文化も、どちらも大衆の物語なんですよ。
でも、CCMSがこの両者を繋いだ時に、なにか特別なことが起こっているように見える、というのは少なからずあって。だってオタクが直接なにかと関係しようという時に、わざわざ手仕事の作家や職人に連絡取らないわけです。手間がかかる上に、インフルエンスできないからですよね。だけど、そこをあえてやってみる、ということを僕らはしていて。
コヤマシゲト:結局、ステッカーやアクリルスタンド、クリアファイルといったものって既にいろんな人がやっているんで、僕らがやる必要ないよねと思っています。ただ、それだけじゃなく、価値の再発見のようなことを僕らはしてみたい。そういう変わったことに取り組みたくて、CCMSをやっているからね。
草野剛:たとえば今回のプロダクトに関しては、本当に一個ずつ関係を繋いで作ってきたものばかりなんです。ぬいぐるみのEstella×CCMS「おばけちゃん」についてはコヤマさんのこだわりがすごいんですよ。コヤマさんってぬいぐるみが異様に好きで、海外に行く度に情報を集めているんです。だから一緒にニューヨークに行った時、僕が手に取ったぬいぐるみを見て、「へー、そういうの好きなんだ」って感じで。冷笑されたんですよ。
コヤマシゲト:あれはあれでいいものなんですよ(笑)。
草野剛:それぐらい解像度の高いコヤマさんが、ここだって言ってコラボした商品なので。ラグマットにしても徳島の工場に依頼しているし、Tシャツも生地からこだわって作っています。レコードも海外でプレスしていて……とにかく一個一個のプロダクトに、オタク特有の早口で語れる要素が詰まっているんです。
──グッズとして、ただロゴやキャラクターが入っていればいい、という消費とは異なる態度ですよね。
草野剛:そうですね。でも、僕らもスローな関係になってきましたね。かつてはもっとスピード感あったじゃないですか。
コヤマシゲト:そうだね。
草野剛:だんだん年を重ねるごとに、速度の早いことが全てじゃないかもしれないな、と感じてきて。若い頃は自分の社会的価値を確立するというミッションを前に、とにかくスピードが大事だったはずなんだけど、この年になってくると失われていくんですよね。
だから今回の一つ一つのプロダクトみたいに、制作に時間がかかるわりにインフルエンスできないようなものであっても、素直にそのモノを取り巻く関係が喜べるようになってきたんだと思うんですよ。自分のスケールを見切ってしまったのか、受け止めてしまったのか、達成してしまったのか、わからないんだけど、今では自分たちなりのスケールでの喜びに、視点がシフトしたところがあると思う。
コヤマシゲト:普段の仕事では、わかりやすく収益が出るようなことをやっていますからね。CCMSでそれをやる必要がないことが大きいと思いますよ。もしこれだけをやっていたら、僕らは本当にヤバい奴になるけど、いつも働いていますから。
──最後に、今回の仮設“展”舗に来られる方に向けて伝えたいことは?
コヤマシゲト:僕のイメージでは、コミケ終わりの人たちが一回ファミレス入って戦利品を眺めて、一息ついた後に「CCMSなんかやってるっぽいから行ってみようか」ぐらいの感じで来てもらえたらなと思います。仕事や学校でコミケに行けないという話もよく聞くし、そういった人たちにも寄ってもらえたら。
草野剛:それからトークイベントがあるので、ご興味あれば来てくださいね※。
コヤマシゲト:まあ、記事にできないような内容になると思いますけど(笑)。
※トークイベントの抽選応募は締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございました。
- Text by namahoge
- Photos by Tsuyoshi Kusano