Special Feature
2026.11.06
あの頃飾れなかったピンナップを――Ferdi(フェル)個展『NEO PIN-UP: TOKYO』インタビュー
感覚を壁に留める「Neo Pin-up」
―フェルさんの創作活動は、これまで十分に発揮できなかった表現を自分のために行うことが原動力になっているんですね。では、どうして「ピンナップ」に着目したのでしょうか?
フェル:女性をモチーフにしたアートのジャンルをいろいろ調べて、自分の考え方に一番合っていたのが「ピンナップ」でした。
ピンナップって言葉自体は「壁に留める」という意味で、女性とは関係のない言葉ですよね。でも、この言葉が生まれた背景には「綺麗だから飾りたい」という気持ちがあったんじゃないかと勝手に思っているんです。その気持ちこそ、僕が作品で大事にしたいものなんです。
―「壁に留める」というメディア性に着目したわけですね。
フェル:ただ、ピンナップというと、欧米のヴィンテージな広告のイメージもあります。僕はインターネットのある時代に生まれて、グラフィックデザインを学び、印刷の仕事もしてきたので、馴染んでいるのはモダンな作り方なんです。だから、昔ながらのピンナップの魅力を今の方法で表現してみる。それを「Neo Pin-Up」と名付けました。
―「Neo Pin-Up」の作品は、モチーフ自体はセクシーなのに、いやらしさを感じさせないところがあります。このバランスにはどのように注意を払っていますか?
フェル:僕の頭の中には、「セクシュアル(sexual)」と「センシュアル(sensual)」という二つの言葉があります。セクシュアルは露骨で、行為そのものを見せる感じ。僕が描きたいのはそちらではなく、五感に訴えるセンシュアルさです。
布の流れや線で雰囲気を作って、「このキャラクターはどんな場面にいるんだろう」と想像をふくらませてもらいたい。露骨に描くんじゃなくて、目線やボディーランゲージで伝える。そうやって直接的に描かないことでセクシュアルになりすぎないように、いわば色香が伝わるように心がけています。

―このシリーズの制作でインスピレーションになっている作家はいますか?
フェル:それはもう、たくさんいます(笑)。まず、この分野の大先輩である江口寿史さんからは大きな影響を受けています。それから空山基さん。金属の体でこれだけの色気を出せるのが本当に魅力的です。
ほかにも、白根ゆたんぽさんやconixさんの作品には非常に強い影響を受けています。グラフィックデザインの感覚でデフォルメされつつも、エロスや魅力を失わず、むしろシンプルだからこそ「カワイさ」が際立つ、そんなお二人の「エロカワ」な表現から、いつも多くのインスピレーションをいただいています。自分もこうした魅力を作品の中で生み出せるようになりたいと、日々表現を追求しています。
また、福岡を代表するKYNEさんは、エロスの直接的な表現こそないものの、色の使い方が僕と近いと感じています。僕は印刷の都合などから色数を絞った作風なのですが、KYNEさんはそうした限られた色数の中で、イラストをアートとして魅せるのが非常に上手いと感じています。
日本にいると展示を見る機会がたくさんあるので、近いジャンルの作家さんたちから「この人のここがいいな」という部分を少しずつ吸収して、自分の作風ができているんだと思います。
―本展のキービジュアルにもある、インドネシアの伝統工芸であるバティック模様を採用した作品は、一体どのようにして生まれたのでしょう?
フェル:最初のきっかけは「インドネシアのピンナップ・キャラクターって誰だろう?」という問いでした。欧米ならマリリン・モンローやベティ・ブープがいますよね。日本は漫画文化をはじめとして、たくさんいます。インドネシアで個展を開くときに、まずそこから考えたんです。
そこで僕が思いついたのはひとりだけでした。1976年の映画『Inem Pelayan Sexy』のイネムです。綺麗なお手伝いさんがお金持ちの雇い主と恋に落ちる話で、大ヒットした作品。僕たちの世代になっても例え話で「それはイネムさんだね」と言われるくらい、国民的な人気があるキャラクターです。
イネムの当時のポスターはすごくピンナップ的だったんですが、今はああいうポスターは作られていません。だから僕が現代のイネムを描いてみようと。同じポーズで、髪を染めてスマホを持たせて。自分の絵にバティック模様を入れたのはその時が初めてでした。
バティック模様の本物はすごく細かいので、僕なりに形をミニマルにして、デフォルメしていますが、描いてみたらこれまで見たことのない魅力が生まれました。すごく伝統的なスタイルを、僕のデジタルな画風と合わせると新鮮なんです。

―母国のピンナップを探したところから、バティックへの関心が広がっていったんですね。
フェル:ちょっと恥ずかしいことなんですけど、長く絵を描いてきて、インドネシアの要素を作品に入れたのは初めてだったんです。
これを機に、本物のバティックをやってみるワークショップに参加しました。本当は、バティックは模様のことではなく、ロウを使って布に描く技法のことなんです。ロウを塗った箇所には色が入らないので、普通の絵とは逆に、色を入れたくない部分に描いていく。しかもロウはすぐに乾くから、手早く描かないといけない。これが本当に大変で、改めて自国の伝統文化に尊敬の気持ちを持ちました。
また、勉強していくうちに、バティックには着物のように模様ごとに意味があることを知って。イネムの衣装を描くときには、小さな模様を組み合わせてひとつの大きな模様をつくる「いろんな文化が調和して一つになる」という意味の柄を選びました。これはインドネシア、シンガポール、日本と渡ってきた僕にぴったりだと思ったんです。