Special Feature

2024.04.11

デジタルは「嘘」じゃないと気付けた──nina初個展「AfterBirth」インタビュー

nina
@Ittetsu Matsuoka
2024年3月、ninaの初個展「AfterBirth」が開催された。ヴァーチャルとリアル、情報と身体の間で揺れ動く人々の感覚を、独自の表現で追究してきたnina。デジタルを主戦場としてきた彼女は、本展で立体作品や油彩画といった新たな表現形式に挑戦している。デビュー6年目にして初の個展を開催することになった背景や、各作品に込められた思いについて、詳しく伺った。

「自然」への憧れと諦め

「自然」への憧れと諦め

──初となる個展の開催、おめでとうございます。なぜ、このタイミングで個展を開催しようと思ったのでしょうか。

もともと、ずっと個展を開きたいとは思っていたんです。ただ、やっぱりお仕事が重なると難しくて。1年ほど前から、ようやく周りに「個展をやりたい」と伝えられるようになったんです。そんなタイミングでたまたまNew Galleryさんからお声がけいただけたので、「ぜひ一緒にやりましょう」とお返事しました。

──これまではイラストやアニメーションなど、デジタルな表現を中心に活動されてきたninaさんですが、今回は油彩に立体と、多様な表現に挑戦されていますね。

個展としてどういう方向性を目指すか、最初は迷いました。今までの活動をアーカイブ的にまとめていくのか、それとも新しいことに挑戦するのか……。でも、よく考えると、自分の作品は画面越しに見てもらうことを想定して作ったものがほとんどなんです。それをわざわざリアルな空間に展示することに、あまり意味を見出せないなと思って。それよりも、自分が本当にやりたくてまだ出来ていなかったこと、新しく挑戦したいことを突き詰めていきたいなと考えたんです。

──ステートメントでは、「身体を忘れたくない」という思いが語られていました。詳しく聞かせてください。

私はこれまでデジタルで絵を描いてきましたが、そのことにずっと違和感を持っていたんです。「嘘をついている」という感覚と言ったらいいのか……でも、なぜそう感じてしまうのかずっとわからなくて。個展をやることになったタイミングで、あらためてそこをじっくり掘り下げました。

そこで見えてきたのは、どうやら自分は「生き物としての自然なあり方」とか「ホモ・サピエンスとしての人間」みたいなものを「本当」だと思っているらしい、ということでした。だから、身体を伴わないデジタルな表現を「嘘」に感じてしまう。

でも一方で、自分自身は都会で生まれて、子どものころからコンピュータに囲まれながらデジタルで絵を描いてきた。この矛盾はなんなんだろうと。それが、「身体を忘れたくない」という思いに繋がったんだと思います。

デジタルと生身を往復するのが自分らしさ

──その違和感は解消されたのでしょうか。

個展で何を描こうか考えるなかで、いろいろな本を読んだり、動画を観たりして考えをまとめていき、徐々に自分のなかで受け入れられるようになっていきました。ビルに囲まれて、デジタルな表現をしてきたことだって、自分にとっては「自然」なわけですよね。逆に、これまで執着してきた「生身の自然」は、自分にとって必ずしもリアルなものではない。

──デジタルという「自然」が、自分のなかに組み込まれていると。

そう、そのことをちゃんと認めてあげる方が良いんだろうなと気付けたんです。デジタルと生身、そこを行き来するのが自分らしさなんだと。今までもたぶん、無自覚にそのバランスを取ろうとしていて、だからデジタルな表現に偏ると不安になっていた。でも今は、少なくともデジタルな表現を「嘘」だとは思っていない。現代を生きる自分にとっては、それは自然なことだから。

──デジタルと生身のバランスを意識的に取れるようになった結果、今回の展示ではフィジカルな表現が増えているということですか。

そうですね、油彩や立体は前から取り組んでみたいと思っていましたが、その理由がやっとわかったという感じです。

──ちなみに、何か手掛かりとなった本や作品などはありますか。

いろいろ見たんですが、一番大きかったのは、メディアアーティストの落合陽一さんが司会をされている「WEEKLY OCHIAI」という番組かもしれません。アーカイブをひたすら見漁っていて、特に先崎彰容さんがゲストに来た回は興味深かったです。

──「AfterBirth」というタイトルはどのように決まったのでしょうか。

デジタルとネイチャーの狭間を目指すというテーマは決まっていたものの、そこにぴったり当てはまる言葉が全然見つからなくて。何かいい言葉がないかなとスマホで医学事典をばーっとめくっていて、たまたま目に留まったのが「後産」という医学用語でした。意味としては、お産で赤ちゃんが出てきた直後に、その一部だった胎盤のかけらなどが母親の体内から出てくることを指すそうです。

この、「生まれる前は自分の一部だったものが、生まれた瞬間に別物として切り離されてしまう」というニュアンスが、今回のテーマにぴったりだなと思って、英語に直した「AfterBirth」をタイトルに据えました。

AfterBirth

Exhibitions

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